良い座りが正す
創作への姿勢
福岡県は星野村。青々とした茶畑を眺めつつ山道を進むと、建ち並ぶ民家の中に、1本の煙突が現れます。そこにいたのは、陶芸家かつ詩人でもある山本さんです。
まだ陶芸の専門教育機関もない時代。山本さんは自ら陶芸家のもとへ弟子入りし、その技を習得していきました。そして26歳のとき、後継者がおらず80年間途絶えていた星野焼を再興させるため、縁もゆかりもなかった福岡県へ単身やってきたのでした。
手探りで郷土の土などを追及しつづけ、ついに再興に成功。お茶を注ぐと、まるで夕日に照らされたように器の内側が黄金に輝くという特殊な技法を再現するまでにいたります。それから50年以上が経ちました。腰をあげ、体重をかけ繰り返し粘土を練る。ろくろの前に座り、前傾姿勢のまま力を加え、器の姿に変えていく。そこには熟練の技が詰まっています。
年齢を重ねても変わらない全身の力強さを保ち続けるため、「座る」にも試行錯誤したのだとか。以前は低反発のクッションと綿のものを2枚重ねて使用したのだと言います。
「前のめりの姿勢を続けるから、若い頃と比べるとお尻と腰にかかる負担が増えて、座っていることが苦痛に感じる。クッションは柔らかすぎても硬すぎても意味が無いからね。」
柔らかな笑顔で語る山本さんですが、ふと目の前のろくろに視線を戻すと、ひたむきに器と語り合う真剣なまなざしに一転。息を止めているかのように、じっと視線を逸らさずに陶芸や書と向き合います。
こだわり選び抜いた「座る」。そこには、山本さんの陶芸への強い思いと、何十年経っても衰えない創作への意欲、姿勢が表れています。