江戸の雰囲気を
その身一つで伝えるために
「おい与太郎。ちょっといいか?」
「なんだい、お父っつあん。」
何もないはずの舞台で目の前にいたのは、間の抜けた息子と、彼を呼び寄せた父親。その姿は、粗忽家勘心さんの声で語られていきます。
「落語は、江戸の文化や匂いがそのまま流れてくる。それをお客さんに感じて欲しいんです。」
アマチュア落語家として活動しながら、外国語学校で日本文化も教えている勘心さんは、落語を通して伝えたいものがありました。
映像の流れるスクリーンも、役に合わせた衣装すら無い中、たった一人、その声ひとつで紡ぎ出す江戸の世界。それを妨げる要素の一つとなりうるのが、落語家の「姿勢」なのだと言います。
「自分は以前デスクワークをしていたので、もともと猫背なんです。でも語り手が目障りな癖を持っていたり、崩れた体勢だったりしたら、そちらに目がいってしまうでしょう?『正しい姿勢』は、最も余計なモノが無い状態。お客さんにノイズとなる情報を与えないように、まずはその状態で話を始められるように心がけています。」
一方で、お客さまを世界に引き入れたあとは、登場人物になりきって大きな身振り手振りをすることもあります。静と動のある落語において、固くはないが柔らかすぎず、体重のかかるところでスッと安定するクッションは、その練習に最適なのだと言います。
「あまりにも壮大な夢ですが。」と苦笑しつつ、多くの人が気軽に落語に触れられる日をめざしたいと語る勘心さん。
その言葉からは、優しく謙虚な人柄と日本文化への強い愛情が滲み出ていました。伝統的な江戸の世界はこれからも、勘心さんの慎ましくも洗練された姿勢によって語られていきます。